解説に依ると、本作品に収録された説話は13世紀末のトスカーナで編集されたという。
作者、或いは編者について詳しい事は解っていないようだが、初の刊本にはルネサンス期に活躍したピエトロ・ベンボが深く関わっていたと言うのだから、それだけでも興味深い。
収められた説話は序文を入れて全100話。
…とは言え、短い話は僅か数行、長い物でもせいぜい2~3頁程度なので、あっという間に読み終えてしまうであろう。
普段は余り接する機会のないイタリアの民間説話であるだけに、興味のある方はこれを機に入手してみては如何だろうか。
さて、イタリアと言えば“amore”の国…さぞかし恋愛譚が多いであろうと思いきや、意外にもこうした説話は殆ど無く、その代わり騎士や皇帝の物語が多くを占めるのが特徴的だ。
勿論、その他にも聖職者、貴族、庶民など幅広く題材を求めているし、アーサー王やランスロット、ギリシャ神話上の人物、ソクラテスやアリストテレスが登場するのも面白い。
正しく「民間説話」ならではとでも言うのであろうか、その多彩さに圧倒された次第である。
因みに、何しろ100話もあるので内容は紹介し切れないが、例えば「立派なメリアドゥス王と怖いものなしの騎士について」のように、宿敵でありながらも相手を尊敬する潔さとそれに応える寛大さを描いた作品には、当時の理想的な騎士道精神を垣間見たようでもあるし、「王が投獄した賢いギリシャ人が如何に駿馬を評価したか」は、説話特有の「オチに秘められた教訓」があって興味深い。
また、ギリシャ神話に登場するナルキッソスが水仙ではなく、アーモンドに変身する展開には驚きもあり、「皇帝が絞首刑に処したある騎士についてここで語られる」は、よくありがちな話ではあるものの、愛と誠実さを試した上でのどんでん返しが絶妙であった。
但し、その一方で、繰り返し読んでも何を言わんとしているのかが理解出来ない話もあったのは事実である。
これは決して翻訳が悪い訳ではないのだが、私の読解力が低いのか、或いはこの時代に対する理解が低いのか…実の所、それ程関心を覚えなかった物語も多かったのだ。
こうした意味に於いては、比較の対象ではないかもしれないが、例えば「イソップ物語」のように、大人から子供まで誰もが楽しめる…という内容とは少し違う。
面白さが今一つ伝わらない説話が多い所に難点があり、自分自身の理解力の低さも含めて、若干の物足りなさが残ってしまったのが残念である。
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完訳中世イタリア民間説話集 単行本 – 2016/8/1
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- 本の長さ214ページ
- 言語日本語
- 出版社論創社
- 発売日2016/8/1
- 寸法13.6 x 1.9 x 19.5 cm
- ISBN-104846015572
- ISBN-13978-4846015572
登録情報
- 出版社 : 論創社 (2016/8/1)
- 発売日 : 2016/8/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 214ページ
- ISBN-10 : 4846015572
- ISBN-13 : 978-4846015572
- 寸法 : 13.6 x 1.9 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 255,526位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 88位イタリア文学 (本)
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2017年4月15日に日本でレビュー済み
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ボッカッチョも取材した小話集『イル・ノヴェッリーノ』の全訳である。例えば第73話「お金に困ったスルタンが正当な理由もなくユダヤ人を告訴した顛末」は、『デカメロン』第1日第3話(三つの宗教を「三つの指輪」に喩えた寓話)に、第51話「あるガスコーニュの婦人がキプロスの王にすがりついた様子についてここで語る」は、第1日第9話に取り入れられている。これらの古拙な物語と、『デカメロン』の潤色された物語を読み比べてみるのも一興である。
中世イタリア文学研究者にとって、この邦訳の出版は朗報である。ただし、先にレビューを書かれた方のご指摘とも関連するが、短い物語ばかりであるにもかかわらず、読みやすいとは言えない。なんらかの教訓が含まれる話は多いのだが、人物の叡智や寛大さが、読者に伝わりにくいのである。それは主として原文の拙劣さに原因があり、特に固有名詞が皆無で、同性の人物が複数登場する物語では、誰が何をして、何を言っているのか、まったくわからなくなってしまう。また翻訳にも問題があることは否めず、地の文に「です・ます」体と「である」体が混在していたり、誤植も少なからず見られたのが、やや残念だった。
中世イタリア文学研究者にとって、この邦訳の出版は朗報である。ただし、先にレビューを書かれた方のご指摘とも関連するが、短い物語ばかりであるにもかかわらず、読みやすいとは言えない。なんらかの教訓が含まれる話は多いのだが、人物の叡智や寛大さが、読者に伝わりにくいのである。それは主として原文の拙劣さに原因があり、特に固有名詞が皆無で、同性の人物が複数登場する物語では、誰が何をして、何を言っているのか、まったくわからなくなってしまう。また翻訳にも問題があることは否めず、地の文に「です・ます」体と「である」体が混在していたり、誤植も少なからず見られたのが、やや残念だった。